夢を見た。



とても懐かしい夢を見た。



それは私達がアカデミーを卒業してほんの僅か、まだまだ駆け出しの新米忍者で、サスケくんもナルトもカカシ先生も一緒だった頃の記憶。

サスケくんは相変わらずぶっきら棒で・・・。でも一歩先を歩きながらも、ちゃんと私達の事を気に掛けていてくれていて。

ナルトはそんなサスケくんにあれこれ突っ掛かりながらも、とても楽しそうに大笑いしていて。

私はサスケくんの気を引きたくて、何としてでも邪魔なナルトを追い払おうとむきになっていて。

少し遅れてカカシ先生は、ちょっと猫背になりながら相変わらず愛読書に夢中になっていた・・・。



どこまでもどこまでも一緒に歩いていた。

同じ一本道を一緒に歩いていると思い込んでいた。



でも気が付くと、私は一人ポツンと取り残されていて、辺りには誰もいなくなっていた。





―― vibrate ――






「はっ・・・」



夜更けに、不意に目を覚ます。

ついさっきまで目にしていた懐かしい仲間の笑顔が、暗い天井に吸い込まれるように消えてなくなる。



また、この夢を見た・・・。



サスケくんが里を抜けてから、もう何回も見続けている同じ夢。

幼さを残した私達が任務の行きや帰りに、お決まりのように繰り返してきた微笑ましい挙動。

夢の中でしか会うことのできない彼は、いつだってはにかんだ笑顔を私達に向けてくれていた。



きりきりと胸が締め付けられる。



カカシ先生の第七班に正式配属されて、一人前に粋がっていた幼い私達。

忍の厳しさなんて、まだ何にも知らなくて、暇さえあれば喧嘩を繰り返していた。

チームワークなんてどこ吹く風。

カカシ先生は思いっきり呆れ果てていたけど、それでも私達なりに見えない絆はしっかりと生まれ育っていた。



本当に楽しかった。

いつまでも私達は一緒なんだと思っていた。

どこまでもこのまま進んでいけると信じてやまなかった。



でも・・・



この世に『絶対』なんてモノは存在しなくて。

気が付くと、私達はバラバラの場所に立っていた。






何一つ変わらない物などあり得ないと解っていたけれど、それでもまた昔みたいになれるって信じていた。

別々の道を歩き出している事に気付かない振りをして、必死に足掻いてみたけれど、時の流れは止められなかった。

死に物狂いになって、彼を呼び戻そうと何度も手を差し伸べたけれど、この手を掴み返される事はとうとう叶わなかった。





・・・もうあの頃の『私達』は、どこにもいない。





大切な人達が、自分の目の前から理不尽に消えていく。

それは、忍をやってればよくある事で、それでもなお己の感情に流されずに里を守る道具に徹すること――

忍とはそう在るべきだと、折に触れカカシ先生から、そう教わっていたけれど。



結局、サスケくんもナルトも、そして私も、忍になりきる事なんて出来やしなかった。



大人からすれば、甘い考えなんだろう。

所詮、私達のやっている事は、忍者ごっごに過ぎないんだろう。

それでも・・・、それでも私は、どうしても踏ん切りをつけられないでいる。

心を殺してまで過去と決別するには、まだまだ私達は未熟過ぎた。





眠れぬまま何度も寝返りをうち、枕元に飾ってある写真立てを手に取って眺める。



あれから、もう何年・・・。



サスケくんの事はずっと気に掛けながらも、日々の雑務や任務に追われて相当な月日が経つ。

その間に新しい出会いもあったし、新しい恋らしきものも経験した。

たまに親しい男友達も出来たりしたけれど、修行修行の毎日は想像以上に過酷で、決してそれ以上に進展する事はなかった。



サスケくんの行方は、杳として知れない。

大蛇丸はサスケくんへの転生を時期尚早と判断したのか、それとも他に良い『器』を見つけたのか、暫くは大丈夫そうだと自来也様は仰っていた。

ナルトは、相変わらずその自来也様に連れられて、里外に修行に出たり、里に戻って任務をこなしたりを繰り返している。

私も、相変わらず綱手様に修行を付けてもらってはいるが、まだまだ一人前の医療忍者にはなり得ていない。

チャクラの練り方もコントロールも全て勝手が違う物ばかりだし、頭に叩き込まなければならない知識も気が遠くなるほど膨大で多岐に渡る。

記憶力にはちょっと自信があった私でも、思わず音を上げそうになる事がしばしばだった。



私だけが足踏みしたまま、ちっとも前に進めていない・・・。



気持ちばかりが空回りして、焦りがどんどん募っていく。

早くみんなに追いつかなくてはと苛立ちばかり覚え、思い通りにならないもどかしさに何度も泣きそうになった。